東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)150号 判決
一 特許庁における審判手続、審決理由の要旨および本件登録実用新案と(イ)号スカート掛との各要旨についての請求原因第一ないし第三項の事実は、すべて当事者間に争がない。そこで、(イ)号スカート掛が本件登録実用新案の権利範囲に属するかどうかについて判断する。
二 本件登録実用新案と(イ)号スカート掛との各要旨として当事者間に争のない事実に、成立について争のない甲第一、二号証、乙第一号証および本件登録実用新案の実施品であることについて争のない検甲第一号証、(イ)号スカート掛にかかる実施品であることについての争のない検甲第二号証を合わせ考えると、つぎの(一)ないし(六)のとおり判断される。
(一) 本件登録実用新案と(イ)号スカート掛とは、筒状主体(管体)の中央上部につり手を取りつけ、この筒状主体の両端内側に止片(端蓋)を設け、止片の中央を通して腕杆の一半を主体の内部へ挿入し、その先端に掛止部(座金)を取りつけ、これにより筒状主体に圧縮収納したコイルバネ(スプリング)の両端を支承させ、腕杆の他端を折り曲げてこの部分にゴム管を嵌着して、スカートを支持させるようにした点で一致している。けれども、両者は、少くとも、本件審決がその理由において指摘する<1>ないし<4>の点(請求原因第三項)、すなわち、腕杆支持部の形状、止片(端蓋)の筒状主体(管体)に対する固定の仕方、つり手の筒状主体(管体)に対する取りつけ方とスプリング(コイルバネ)の係止の仕方および調節螺杆の有無の構造において、たがいに相違していることが明らかである。
(二) そして、本件登録実用新案においては、腕杆(6)(6)はほぼ直角に下方へ折り曲げられており筒状主体(1)とともにコ字状を形成していてつり手(2)のほかは上方に突出するものがないから、腕杆(6)(6)の彎曲端部でスカートを保持しうるとともに、全体が洋服掛としての役目を、本来的に、果すことができる。一方、(イ)号スカート掛においては、腕杆(3)(3)の端がいつたん下方へ折り曲げられさらにその先端を上方へ折り返しほぼ丁字状に形成しているので、この折返し部分が管体(1)の上面をこえて突出しているほか、つり手(7)以外に、調節螺杆(6)(6)が上方に突出している。したがつて、腕杆(3)(3)の彎曲端部(10)(10)でスカートを保持する点で本件登録実用新案と作用効果を同じくするけれども、(イ)号スカート掛は、とうてい、本来的に、洋服掛に使用するにたえない。しいてこれを洋服掛に使用すれば、洋服(上衣)の両肩部が右突出部により形状等においてそこなわれることが明らかである。
(三) (イ)号スカート掛の調節螺杆(調節ねじ)(6)(6)の作用効果について
調節螺杆(6)(6)は、(イ)号スカート掛の構造にはあるが、本件登録実用新案には、これに相当するものがない。この調節螺杆(6)(6)は、つぎのように使用される。すなわち、
スカート掛を使用する場合、まず、腕杆(3)(3)を管体(1)の中へじゆうぶん押し込み調節螺杆(6)(6)を締めスプリングの反発力で腕杆(3)(3)が飛び出さないようにしたうえ、スカート掛をスカートのベルトの内側に入れ、ついで、調節螺杆(6)(6)を左右順次にゆるめるとスプリングの反発力で腕杆(3)(3)が突出し、その支持部(10)(10)がベルトの内側に当りとどまる。そこで、ふたたび調節螺杆(6)(6)を締め、腕杆(3)(3)を管体(1)に固定すれば、スカートは、容易に固定されて落ちず、引つ張つたくらいではたやすく外れないから、スカートを伸張しつり下げるにじゆうぶんである。このようにすれば、(イ)号スカート掛を腰まわりの小さいスカートに用いスカートのベルトにスプリング(2)の反発力が強く働く場合、これを適宜の強さに調節することができ、また、スカートの腰まわりが大きいためスプリング(2)の反発力がベルトにじゆうぶん及ばない場合でも、調節螺杆(6)(6)を締めることによつて、スカートを確実に保持し落ちないようにつり下げうることが認められる。
つぎに、スカート掛からスカートを取り外す場合、(イ)号スカート掛においては、一方の調節螺杆(6)をゆるめ、その腕杆(3)の支持部(10)に掌を当て、中指と食指とをさきにゆるめた調節螺杆(6)にかけて握れば、スカートは、反対側から容易に離脱する。したがつて、スカートの取外しが片手で簡単にできることが明らかである。一方、本件登録実用新案については、このような作用効果は認められない。
(四) 原告は、(イ)号スカート掛において、滑止め用ゴム管を嵌着した支持部(10)(10)を上向きにしてもそのため特別の効果を奏するものではなく、これを下向きにした本件登録実用新案と効果において差異がないと主張する。けれども、(イ)号スカート掛の腕杆(3)(3)の端が前示のとおりいつたん下方へ折り曲げられさらにその先端部において上方に折り返されほぼT字状に形成され、この折返し部分が管体(1)の上面をこえて突出している点は、これを、スカート掛からスカートを取り外す場合における調節螺杆(6)の前示作用効果と合わせ考えると、この作用効果をより確実かつ効果的にするに少なからず役立つているものであることが容易に了解できるばかりでなく、支持部(10)を押圧して腕杆(3)を管体(1)の中へ押し込む際、その押圧力はほとんど管体(1)の軸方向にだけ働くから、本件登録実用新案に比し、腕杆(3)をより円滑容易に操作挿入することを得させるし、また、折返し部分を、スカート掛全体の外観との調和を考慮しつつ、スカートを掛けたときこれがずり落ちないような適当の長さに案配させうる利点ともなつていることが認められる。
なお、原告は、支持部に滑止めのゴム管を使用したのは本件登録実用新案においてはじめてであるとして、この点からも(イ)号スカート掛が本件登録実用新案の権利範囲に属すると主張しようとするけれども、右のような滑止めはすでに本件登録実用新案の出願前公知に属することが認められるから、その主張のとりえないことはいうまでもない。
(五) また、本件登録実用新案においては、止片(7)(7)を回動することによつてこれを進退させ、支持部(5)(5)間の最大幅を調節することができるのに対し、この止片に相当する端蓋(4)(4)を管体(1) にねじ止めした(イ)号スカート掛からは、このような作用効果を期待できないと認められるから、この点においても、両者には差異があるということができる。
(六) なお、本件登録実用新案は、(a)スカートを保持させた場合、スカートは、これを引つ張つたくらいではたやすく外れず、(b)つり下げ、折り畳まないから、スカートに折畳みによるしわを生ぜず、かえつて着用によつて生じたしわを矯正できる、(c)腕杆(6)(6)が筒状主体(1)の両端に同一の長さで突出するから不均合により傾くことがなく、ひいてスカートを展示した場合体裁をそこなうことがない、(d)腕杆(6)(6)は、回動自在に構成されるので支持部(5)(5)を上方に向ければ小さくなり持運びに便である、(e)コンパクトであるにかかわらず強度が大であり、(f)形状が対称形で意匠的にもすぐれているとの効果を有していることが認められ、そのうち(a)(b)(c)(e)(f)の点は、(イ)号スカート掛もこれを備えている。けれども、(a)および(e)の点は、(イ)号スカート掛においては本件登録実用新案とは異なる前示<1><3>および<4>の構造にもとづいてその効果を表しているものであり、(b)(c)(f)の点は、従来から衣類掛一般によく認められるつり下げることおよびつり手を中央にして腕が両方に同じ長さに作られることの効果によるものであつて、本件登録実用新案の構造にもとづく特別な効果とは認められない。また、(d)の点は、(イ)号スカート掛の備えないか要旨としない構造にもとづいて出た効果である。したがつて、右は、(イ)号スカート掛が本件登録実用新案の権利範囲に属するかの判断にあたつては考慮するまでもないことに属する。
三 以上のとおり、(イ)号スカート掛は、本件登録実用新案とは、構造上多くの差異があり、これにともない本件登録実用新案の備えない右のとおりの顕著な多くの作用効果を奏するにいたつているものと認められるから、たとい両者が前示の点において一致するとしても、両者を全体として対比考察すれば、もはやその余の点にわたつて判断するまでもなく、とうてい右差異をもつて構造上の微差にとどまるものと認めえず、(イ)号スカート掛は、本件登録実用新案の権利範囲に属しないことが明らかである。よつて、これと同趣旨に出た本件審決は相当であり、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がない。